どんな仕事であれ,仕事は複数人で役割を分担しながらチームで進めていくものです。
新規事業を立ち上げて成功させるなど大きな成果を上げるためには,チームとしてのパフォーマンスを最大化することが必須です。
こんな方におすすめ
- 新しいチームを立ち上げたので,高いパフォーマンスのチームにしたい
- チームビルディングを行う上でカギとなる要因を知りたい
新規事業を立ち上げた人やプロジェクトマネジメントに携わる立場の人にぜひ知っておいてほしい,Tuckmanモデルという有名なチームビルディングの理論を紹介します。
この記事のポイント
- プロジェクトチームの形成過程をモデル化したTuckmanモデルの概要がわかる!
- プロジェクトリーダーがチームのパフォーマンス最大化を目指すときのポイントがわかる!
Tuckmanモデルとは?
Tuckman モデルとは,教育心理学者のブルース・タックマンが指摘した,5~15人程度のプロジェクトチームの形成過程を示したモデルです。
プロジェクトチームは一般的に以下の段階を経て最終的に解散するというライフサイクルをたどります。
重要: Tuckmanモデルにおけるチームライフサイクルの5段階
- 成立期 (Forming)
- 動乱期 (Storming)
- 安定期 (Norming)
- 遂行期 (Performing)
- 解散期 (Adjourning)
詳しい解説に入る前に,とある会社で組成された新規事業のプロジェクトチームがチームで高い成果を上げたサクセスストーリーを見てみましょう。
具体例 - とあるプロジェクトチームの成功物語
4月からあなたは消費財新規開発プロジェクトにマーケティング担当として加入しました。
プロジェクトメンバーはみんな穏やかに接してくれるので,加入直後の緊張はすぐにほぐれましたが,自分の考えをはっきりと表明するのはまだ気が引けてしまいます。
またメンバー同士も明らかにお互い探り合いをしているようです。
プロジェクトの具体的な作業が進行し始めたある日のことです。
新商品のターゲット層へのアプローチの方法について,マーケティング担当のあなたと企画担当者の意見が食い違うことがありました。ほかのメンバーもお互いの意見の違いをめぐって口論をすることが次第に増えてきました。
チーム内の緊張は高まっていき,会議では予定していたアジェンダが何も決まらずに終わってしまうという事態まで起こってしまいました。
そんなある日,あなたはマネージャーに呼び出されます。
そこでマネージャーは
「企画の彼は以前別のプロジェクトで同様の手法で行ったマーケティング結果に沿って商品を開発したのに,見通し通りの売上が得られなかったことがあり,過剰に神経質になっている」
ということをあなたに伝えます。
そのうえで,以前のケースと今回のケースでは状況が異なっており,今回はあなたの提案した方法でうまくいく条件が揃っていることを論理的に話せばきっと分かってくれるはずだとアドバイスをしてくれました。
後になって分かった話ですが,このときマネージャーは各メンバーとも同様の個別面談を実施しており,それぞれのメンバーの価値観や仕事のスタイルなどを汲み取った上で,メンバー同士の相互理解が進んでいない真因となっているものは何かを明らかにしようとしていたようです。
早速アドバイス通りに企画担当者と再度コミュニケーションをとったところ,
「実は今回のケースではあなたの提案でうまくいく見込みがあることは理屈上納得してはいたが,今回のプロジェクトでは絶対に失敗は許されないという思いから,保守的なスタンスをとってしまった」
という事情を明かしてくれた上で,あなたの提案を受け入れてくれました。
この一件を経て,あなたは企画担当者のみならず他のメンバーの価値観や仕事の進め方なども次第に理解できるようになり,円滑なコミュニケーションのために自分の対応を少しずつ調整するなどの配慮も意識的に行うようになりました。
現在は,チームの相互理解がさらに進んで,チームの共同作業の効率も飛躍的に向上しています。
結果,あなたは途中多くの困難に直面しながらも,メンバーのサポートのおかげもあって,新規開発プロジェクトを無事完遂することができました。
このプロジェクトで開発した商品は,当初目標の3倍の売上を達成し,プロジェクトは大成功となりました。
めでたしめでたし。
注: この話はフィクションです。
解説
上記の例を念頭に置きながら,最初に紹介したTuckman モデルの各段階について詳しく見てみましょう。
成立期 (Forming)
成立期は,チームが組まれたばかりの状態で,この段階ではメンバー同士の関係は表面上穏やかですが,実際にはチームメンバーはお互いに遠慮しながら様子見をしています。
動乱期 (Storming)
プロジェクトが進行しそれぞれのメンバーが業務を進めるにつれ,チームメンバーの役割や価値観,ポリシー,優先順位のつけ方などに対立が生じ始めます。この段階は動乱期と呼ばれ,動乱期にはチームのパフォーマンスは低下します。
安定期 (Norming)
メンバー同士の対立が解消され動乱期を乗り越えると,チームは安定期に移行し,メンバーは協働のために自身の意見などを相手に合わせて調整するなどして,効果的なコミュニケーションを取り始めるようになります。チームメンバーの間に信頼関係が芽生え始めます。
遂行期 (Performing)
安定期を経て,チームメンバーは相互に依存しながら円滑に課題に取り組めるようになります。この遂行期でチームのパフォーマンスは最大化されます。
解散期 (Adjourning)
チームが組成された当初の目的の達成が近づいてくると,チームは解散期と呼ばれる段階に移行します。チームメンバーの中に次の業務のアサインメントの準備を始める者,実際にチームを離れる者が出始めます。
Tuckmanモデルのポイント
Tuckmanモデルの各段階におけるチームのパフォーマンスを図示すると,以下のようなイメージになります。
成立期にはチームメンバー同士の関係は表面上は穏やかだが,メンバーは独立して動いているため,チームとしてのパフォーマンスは高くはありません。
動乱期にはメンバー間の対立が生じることにより協力体制に支障が生じ,チームとしてのパフォーマンスは低下してしまいます。
チームが動乱期を乗り越え安定期に入ると,メンバーの協調が始まりパフォーマンスが改善し始めます。
メンバーの相互依存が十分に深まり機能している遂行期には,チームは最大のパフォーマンスを発揮できるようになります。
ここでのポイントは次の2点です。
いかにしてチーム形成後早い段階で動乱期でメンバー間の対立を表面化させて動乱期に突入するか,そしていかに短期間でこの動乱期を乗り越えていくかが,リーダーのチームビルディングにおける腕の見せ所です。
まとめ
今回は,どのようにして高いパフォーマンスを発揮できるチームを作り上げることができるのかを考えるために,有名なチームビルディング理論であるTuckmanモデルを紹介させていただきました。
チームワークがいかんなく発揮されるチームを作るには,チームメンバー同士が対立し,お互いの意見をぶつけ合う動乱期を越えなければなりません。リーダーとして,この動乱期をいかにコントロールして乗り越えていくかが,強いチーム作りのカギとなります。
次回,実践編として,動乱期をいかにして乗り越えていくか,そしてテレワークが爆発的に普及し,働き方,チームのあり方が大きく様変わりしているWithコロナの環境下で,チームビルディングの観点でどのようなことを心掛けるべきかを解説したいと思います。