SDGsは他人事ではない
こちらの記事でも紹介されている通り,SDGs (Sustainable Development Goals) はこれからのビジネスの方向性を検討するうえでぜひとも押さえておきたいキーワードです。
しかし,ここで挙げられている17の目標はいずれも世界がこれまで様々なアプローチで解決に向けて取り組んできたものの,いまだ解決には至っていない難題ばかりです。
これを見て,
- SDGsは今の事業に関係ないからやらないでいい
- SDGsやりたいけど自社の事業領域と違うから何もできない
- 儲けにつながらないからやらない
と考えた方も多いのではないかと思います。
しかしながら,SDGsと事業が関係していないように思えても,視点を変えればSDGsへの貢献が可能である上,SDGsを経営マターとしてとらえ,SDGs対応に取り組むことは企業として大きなメリットがあります。
というわけで,本日は以下の項目に沿ってSDGsを説明したいと思います。
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1企業がSDGsに対応するメリット
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2企業がSDGsに対応しないリスク
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3SDGs経営の明暗が分かれはじめるタイミングはいつ?
1. 企業がSDGsに対応するメリット
SDGsの流れにみんなが乗っかっていけば社会課題は解決されるかもしれないけど,それはうちの会社の事業には直接関係がない
とお考えの方に,SDGsに対応するメリットをご紹介します。
営業機会が増える
あなたの会社がSDGsに意欲的に取り組んでいることが,同様にSDGsに関心を持っている取引先に伝われば,取引関係を強化できたり,競合他社との差別化をはかることができます。
特に今後は,サプライチェーンにおけるSDGs重視の視点があらゆる企業に浸透していくことが予想されるので,SDGsを重視した経営体制を早くから整えていたBtoBの会社にとってはビジネスチャンスが到来します。
このトレンドを捉えることができれば,既存の取引関係を強化したり,新規顧客を開拓したりするチャンスを得ることができるでしょう。
投融資を受ける機会が増える
SDGsと密接にかかわる金融業界のトレンドを示すキーワードとしてESG投資があげられます。
ESG投資とは,財務情報だけでなく企業の環境や社会への配慮,企業統治の情報も加味して企業価値を測る投資手法です。
GPIF (年金積立金管理運用独立行政法人) といえばクジラとも呼ばれる世界屈指の規模を誇る機関投資家ですが,このGPIFがPRI (責任投資原則, 2006年国連に当時の国連事務総長のコフィー・アナンが提唱) への署名を以てESG投資の推進を明確に宣言しました。そして,以下のような図式でESG投資とSDGsの関係を示しています。
(出典: https://www.gpif.go.jp/investment/esg/)
ここに示されているのは,企業が社会的課題解決のためSDGsに取り組むことが企業にとっての事業機会の増加につながり,それがGPIFがESGを重視して投資先を選定する際の投資機会の増加につながる,さらにはSDGsに取り組む企業の価値は中長期的に向上することが見込まれるので,GPIFとしても大きなリターンが見込める,という構造です。
企業価値が上がる
GPIFの図にもありますが,企業がSDGsに取り組むことで,経済価値と社会価値の共通価値の創造 (Creating Shared Value: CSV) を目指すことになります。
これは2011年にハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授らによって提唱された競争戦略です。
従来,企業が利潤を追求すれば,社会に対して公害や労働力の搾取などの負のインパクトが生じる,つまり経済価値と社会価値はトレードオフの関係にあるというのが一般的な考え方でしたが,CSVは,社会的課題解決に取り組むことで利益を上げ,経済価値と社会価値を両立しようという考え方です。
CSVの考え方に基づけば,企業がSDGsという社会的課題の解決に取り組むことで,経済価値も向上させることができます。
このほかにも,広報で投資家に向けて企業理念,ビジネスモデルなどをSDGsの文脈に当てはめて発信することによって,ESG投資に関心のある投資家の関心を引くことができるため,企業価値の向上が期待できます。
優秀な人材が自社に集まる
ミレニアル世代・ポストミレニアル世代のような若い世代には,SDGsの価値観がより広く受け入れられているというデータがあります。
また大学をはじめとする教育現場でもSDGs教育が強化されてきており,例えば東京大学では「One Earth Guardians(地球医)」というパートナー企業と共同の人材育成プログラムが実施されています。
SDGsへの取り組みはこうした世代の優秀層に対するアピールとなり,優秀な人材を惹きつける要因となるでしょう。
また,社員が自身の業務と社会課題の関連性の理解を深めることにより,社員のモチベーション向上も期待されます。
2. 企業がSDGsに対応しないリスク
上記メリットは裏を返せばそのままSDGsに対応しないことによるリスクになります。
すなわち,SDGsへの対応で他社に後れを取ると,以下のような機会損失を被る可能性があるということです。
営業機会を逸失する
競合他社がSDGsに意欲的に取り組んでいる一方であなたの会社が対応で後手に回っていると,SDGsに関心を持っている取引先が競合に乗り換えてしまうリスクがあります。
先述の通り,サプライチェーンにおけるSDGs重視の視点は今後拡大していくことが予想されていますので,このようなケースが起こるリスクは高いといえます。
投融資を受ける機会を逸失する
GPIFを例に説明しましたが,投資家がESGを重視しSDGsに取り組んでいる企業への投資をより積極的に行うようになる流れは継続するでしょう。
SDGsに関連した金融商品を開発している地方銀行もあります。
SDGsに対応できていない企業はこうした融資の機会をみすみす逃すことになってしまいます。
企業価値が低下してしまう
SDGsに取り組む企業の価値向上のメカニズムはすでに説明した通りですが,裏を返せば,SDGsへの取り組みに消極的な企業の価値は相対的に低下してしまうことになります。
優秀な人材が集まらない
SDGsに取り組む企業は,自社の社員に社会課題解決への参画を自覚させることで彼ら彼女らののモチベーションを高め,有能な人材の確保を促進する,という指摘をしたことの裏返しで,SDGsへの取り組みが不十分な企業からは有能な人材が流出してしまうリスクがあります。
3. SDGs経営の明暗が分かれはじめるタイミングはいつ?
「じゃあそのSDGsの波はいつ来るの?」という点が次の関心になってくると思います。
結論から申し上げますと,残念ながら延期になってしまいましたが,2020年東京五輪がSDGsの浸透の契機となります。
IOCは2014年に宣言した「IOCオリンピックアジェンダ2020」で,オリンピックのすべての側面に持続可能性を導入することを謳っており,その具体的な指針としてSDGsが用いられています。
実際に,東京五輪の準備・運営段階における調達プロセスは”持続可能性に配慮した調達コード”によって規定されており,その中で
"東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、本調達コードに基づく調達に取り組むことで、東京2020大会の持続可能性に配慮した準備・運営に資するとともに、SDGs(持続可能な開発目標)が掲げる持続可能な消費・生産の形態が確保された社会の実現に向けて、本調達コードと同様の取組が拡大し、広く社会に持続可能性を重視する姿勢が定着するよう働きかけていきます。"
(https://tokyo2020.org/ja/games/sustainability/sus-code より抜粋)
と宣言しています。
「持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム」 (ISO20121) がその後の持続可能なイベント運営のスタンダードとなっていった2012年のロンドン五輪の事例と同様に,東京五輪で制定された持続可能性に配慮した調達コードも今後の社会に定着する可能性が高いといえます。
また,2025年には,SDGs万博と銘打っている大阪・関西万博もあります。
日本政府としても,東京五輪や大阪万博はSDGsへの取り組みを対外的にアピールする格好の機会であり (個人的には,どんな形であれスポーツの祭典が政治利用されることには納得いかない点はありますが) ,政府が両イベントに向けて企業のSDGsへの取り組みを強力に後押ししていくいくことが予想されます。
このように,日本が今後予定している2つの国際的イベントを根拠に,SDGsのトレンドはこの5年以内に瞬く間にあらゆる企業活動に広まっていくであろうことが推測できます。
まとめ
今回は,企業がSDGsに取り組むことによるメリット,その裏返しとしてのデメリットを紹介し,このSDGsのトレンドが来ると予測されるタイミングについても解説しました。
次回は,どうやってSDGsに対処していったらいいのか,その具体的な対処法と,SDGsに取り組んでいる企業の実例を紹介したいと思います。